天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
第16話 木漏
太平洋の赤道近くにある…小さな島。

木々が、生い茂る緑の島を、ただ青い海が囲っていた。

綺麗な島だが、砂浜がなかった。

まるで、空中庭園のように、海から突き出したような島は、人の浸入を拒んでいた。

自由に入れるものは、空を飛べる者だけである。

翼なき者は、入れない。

緑に覆われた島の中央に、穴が開いていた。

水が溜まり、泉のようになっていた。

もしかしたら、火山が地殻変動で、海底から突き出し…火口に、水が溜まったのかもしれない。

今は、ただ…静かで、のどかな島だ。

泉は、澄んでいるが…底は見えなかった。

風に揺れる水面の下から、黒い影が上昇してくる。


水面から飛び出した影は、水しぶきを上げながら、太陽に向かって、ジャンプした。

もし、人がいたなら…人魚と勘違いしただろう。

事実は…その影の下半身は、魚の尻尾だった。


「ここは…気持ちいいわ」

影は、また水面に飛び込むと、顔を出した。

マーメイドモード。

アルテミアの水属性の戦闘スタイルだった。

顔を出した後は、普通の人型に戻り、アルテミアは水面に浮かんだ。

空を見ていると、ひたすら青く…太陽が近い。何とか掴めそうに見えた。

しばらく浮かんでいると、アルテミアの回りに、渡り鳥達が羽を安めに、泉に降り立った。

アルテミアは気を押さえて、風と一体化する。

鳥の鳴き声…木々の揺れる音…自然の音は、すべて心地よかった。




そんな静寂を破るように、場違いな電子音が、泉に響いた。

驚いた鳥達が、一斉に飛び上がる。


アルテミアは、携帯を取り出した。

そして、その文面を見て、鼻を鳴らした。

「やれやれ…」

アルテミアは携帯をしまった。

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