天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
「…で、どうなさいますか?」

カウンターに座る綾子の前に、コーヒーが置かれた。

小さな喫茶店の中、綾子はくつろいでいた。

そんな綾子を、マスターは見つけていた。

「…」

マスターの質問に、綾子はすぐには答えなかった。

カップから漂う香りを楽しんだ後、綾子はため息とともに口を開いた。

「何もしないわ」

そう言うと、カップを口に運ぶ。

「まだ…目覚めた者も少ないし…」

「もう一度…カードを送りますか?今度は、世界中に向けて…」

マスターの言葉を、綾子は遮った。

「まずは、この国だけでいいわ。種を持ってる者は、この国が一番多いし…」

綾子は、カップを置いた。そして、カウンターに頬杖をつき、

「それに、言葉が通じない。目覚めたのに、言葉が通じないって…神って、残酷よねえ」

テレパシーを使っても、言葉をこえて、感じ合うとしても、時間がかかる。


「まあ…」

マスターは、新しいコーヒーを入れながら、

「この国は、八百万(やおよろず)の神々がいると、言いますし…」

綾子に微笑んだ。

綾子は肩をすくめると、カウンターから立ち上がった。

そして、扉に向かって、歩き出した。

「綾子様」

マスターは、コーヒーを入れる手を止めた。

綾子は、扉の前で足を止め、

「八百万でも…足りないわ」

自虐的に笑うと、扉を開け、

「力がいるわ。もっと恐ろしい力が」

綾子は、扉の向こうに消えた。

マスターは、その後ろ姿を見送りながら、呟いた。

「その力は……この国をまた、汚すことになる…」

マスターは、コーヒーを入れ終わると、

「だが…我々は、止まらない」

マスターは入れたコーヒーを、一口で飲み干した。

そのマスターの脳裏に、真っ赤な空が映る。

空が燃えているのだ。

「地獄は…つくられる…か…」

マスターは空のカップを、カウンターに置いた。


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