天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
「あなた方には、ここで働いて頂きたい」

都市の中心から、離れた総合病院。

そこにある隔離病棟。

ちゃんと建物としてあるのだが、隔離病棟と聞くと、人は自然と足が向かない。

その為、彼らが行動するのは、適した場所だった。

人から進化した彼らにとって、人間の伝染病は、あまり恐ろしくはなかった。

(隔離病棟…ある意味、我々にはお似合いか)

大部屋を潰して、会議室のように、パイプ椅子を並べ、数人を座らせ、

山根は、その前に立ち、心の中で、ほくそ笑んでいた。

配られた紙を、一番前に座り、目を通していた仁志は、その勤務先を知り、戦慄が走っていた。

「本当なら…簡単に働けないところですが…」

山根は、自分の隣で姿勢を正し、立っている男を促した。

「我らの同士が、この会社の役員をしています。そのコネを使い…数人を就職させることが、できるようになりました」

一歩前に出て、頭を下げた中年の男は、頭の天辺がハゲていた。

山根は、言葉を続けた。

「この会社は、日本で一番…この施設を保有しております」


仁志の紙を持つ手が、震えた。


その施設とは、

原子力発電所である。


「あなた方は、しばらくはただ…真面目に働いてもらいたい。何もしなくていいです。ただ昔のように、勤勉に、模範生になるように、頑張ってもらいたい」


仁志の周りにいるのは、自分と同じような…見た目から、おとなしい人達であった。

「今のところは、それだけです」

山根は、部屋にいる人達を見回し、

「我らの未来の為に、あなた方にも、頑張ってもらいたい」

そう言うと、山根は頭を下げ、大部屋を出た。

「これから、詳しい説明を致します」

山根に変わり、中年の男が説明を始めた。



まるで、新人研修のようになった部屋を出ると、病院には似合わない…黒ずくめの男女が、控えていた。

「行くぞ」

山根の言葉に頷くと、6人の男女は、彼の後ろに続く。

ちらっと、一番後ろに続く男が、扉の隙間から、部屋の中を覗いた。


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