天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
どこまで飛んだのかは、わからなかった。

できるだけ、人目の少ないところを意識はした。

都市部をさらに離れ…夜の港の倉庫街に、アルテミアはテレポートした。

現れてすぐに、アルテミアから僕に戻る。アルテミアの胸も、血が溢れていた。

同じ体を共有しているのだ。当然といえば、当然だ。

バンパイアである僕の細胞再生が、心臓の場合…なかなか進まなかった。

「治癒魔法を…」

思わず…カードを探す僕は、苦笑した。

もうカードシステムはないし…ここは、ブルーワールドではない。

「そ…そうだよね……アルテミア…」

全身の力が抜けた。

意識さえ…消えていく中…僕の目に近づいてくる人影が、映った。

人影は、僕に向かって覗き込むように、身を屈めた。

しかし、逃げる力も…見る力も、僕にはなかった。

瞼が落ち、意識が消えていく中…

(モード・チェンジ)

と心の中で、呟いた。

だけど…アルテミアに変わることは、なかった。





「こいつが、天空の女神の依り代かい?」

少し遅れて、倉庫街の路地に現れた沙知絵は、手を組み、

赤星の前で、屈む女の肩越しから、その姿を眺めた。

「そうは見えないね。気弱そうだ」

沙知絵の感想に、赤星の前にいるリンネは、クスッと笑った。

「その通りね」

リンネは、右手を赤星の胸に当てながら、赤星の顔をまじまじと見つめた。


「ところで、何をやるんだ?」

沙知絵は訝しげに、リンネの右手を見た。青白く光っていた。

「あたしには…まるで、傷を治してるように見えるけど?」


沙知絵は、赤星からリンネに視線を変えた。


リンネはまた軽く笑うと、赤星から手を離した。

そして、立ち上がると、赤星を見下ろしながら、

「彼の属性は、炎。あたしと同じ…さらに、彼の体の中には、フレアの炎も残ってる。


赤星の胸元が、青白く輝き…止まらなかった血が、流れてなくなった。

< 206 / 227 >

この作品をシェア

pagetop