天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
マスターの目が、妖しく輝いた。

その目を見た瞬間、さつきは眠気に襲われ…やがて、眠りについた。

マスターは、カウンターに覆い被さるように眠りについたさつきを、見下ろしながら、呟くように言った。

「迫害された…もう一つのキリスト教…。それがなぜ…迫害され、消えていったのか…」

「人は、罪人である。自殺したら、地獄にいく。天国に行く為には、自殺は絶対してはいけない」

カウンターの一番端で、コーヒーを飲んでいた山根が、笑った。

そして、立ち上がると、さつきのそばまで、歩く。

「だけど…失われたキリスト教は、こう真実を述べた。本当は、この世界こそが、地獄であると」

山根は、さつきの後ろに立ち、

「自殺することは、この世界から…楽に助かることが、できる」

マスターに、にやりと笑いかけた。

「民衆から、搾取したい者達は、死なれては困る。だから…迫害した」

さつきの両肩に、手を乗せ、

「真実を、知られてはいけないから」

じっとマスターの目を見る山根に、マスターは鼻を鳴らし、さつきが飲んでいたカップを下げながら、

「どれが、真実かはわらない。地獄と…天国…。それは、個人個人の心の有り様によって、変わる」

「だけど!人は、個人だけでは生きれない!心弱気人は、平気で人を、傷付ける。そういう人間こそに、この世が、地獄だとわからせるべきだ!」

山根の強き言葉に、マスターは視線を外した。

「もしかして…今更、躊躇っているのですか?人の記憶を書き替えることができる…あなたが」

山根は、苦笑した。

「俺は、後悔してませんよ。昔を覚えていないが、今は満たされている」

後ろのテーブル席にいた宮島達は、カウンターからさつきを担ぎ上げた。


「彼女は…望んでいるのか?お前達のようになることを…」

マスターの言葉に、山根はせせら笑った。

「彼女は…もう覚えてませんよ。何も」
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