天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
「演劇…」

反復したマスターに、

「はい」

と、美奈子は頷いた。



「大した劇団では、ないんですけど…あたしが引退する時が来ても、続いてほしいんですよ…。ただそれだけです」


「不躾な質問ですが…どうして演劇を?それだけでは、生活できないときいておりますが…」


かつて、この喫茶店にも、多くの劇団員が、顔を見せていた。

だけど、挫折したもの…。国から、粛正されたものが…ほとんどだ。

自由を象徴する舞台は、若さの花だった。

でも、今は違う。



美奈子は苦笑し、頬杖をついた。

「大したことじゃないんですよ。あたしはあんまり…これがやりたいってのが、なくて…」

と言った後、首を横に振り、

「いえ、違うわ…。やりたいことが、たくさんあるから……演じることを選んだんです」


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