天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
彩香に連れられて来た店は、

赤星の知ってる店だった。

古風な木造の分厚い扉を開けると、カウンターと二つのテーブル席。

彩香は、テーブル席に座る。

赤星は、マスターに軽く会釈すると、

彩香の前に座った。

赤星は少し…気まずい思いを感じていた。

先日…この店で、会った男は、死んだはずだ。

しかし、ニュースにもなっておらず…騒がれた様子もない。

(最後…会ったのは、ここだ…。マスターは、僕の顔をおぼえているはずだ)

記憶を消すこともできるが、カウンター内とテーブルは、離れていた。

記憶を消すには、面と向かって、目を見なければならない。


悩んでいると、マスターがコーヒーカップを2つ持って、テーブルに近づいてきた。

彩香の前…そして、僕の前にコーヒーは、置かれた。

「あ、あのお…」

僕達は、注文していなかったはずだ。

「すいません…。うちは、コーヒーしかないんですよ」 

僕が話す前に、マスターが謝った。

「あなたは、初めてですから…わからなかったでしょうが……彼女は、知ってますよね」

マスターの言葉に、彩香は頷いた。

(うそをつけ!)

彩香が、カップに口をつけた後、

僕はコーヒーを一口飲んで、心の中で、毒づいた。

コーヒーは、僕の好みの味付けがされていた。

つまり、マスターは僕を知っている。

(何のつもりだ)

マスターを探ろうとしたが…目の前で俯き加減で、コーヒーを飲んでいた彩香が、おもむろに口を開き、話しだしたから…

僕は一旦、マスターを気するのをやめた。

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