天空のエトランゼ〜哀しみの饗宴(魔獣因子編)〜
バスルームから出て、髪をドライヤーで乾かしていると、

携帯が鳴った。

ちらっとディスプレイを見ると、美奈子からだ。

明菜は、携帯を取った。

「はい」




「明菜か?…やっぱりな…いろいろ考えたんだが…」

美奈子の口調は、どこか思い詰めていた。思いを決めながらも、最後の一言をいうのを躊躇っていた。いや、美奈子が躊躇っているというより……美奈子の良心が躊躇っていた。

「先輩…」

それは、明菜も同じだった。次の言葉も、わかっていた。

だけど…明菜は黙って、美奈子の言葉を待った。

「気性だな…」

美奈子は、電話の向こうで頭をかくと、一呼吸置き、

「傍観者は、性に合わない!何が起こってるのか、事実が知りたい!」

ここで、美奈子は言葉を切り、

「だ・か・ら…明日から、探す!」



「明日から…探す?」

明菜は、意味がわからなかった。



「赤星浩一だよ!あいつなら、すべて知ってるだろ!」

美奈子の主張は、もっともなようで、もっともではない。

赤星が知っているかもしれないけど…彼の足取りをつかむことは、むずしい。

それに……。



「稽古は、どうするんですか?」

明菜の言葉に、美奈子はフッと笑った。

「…役者に、スタッフ…二人もいなくなったんだ。今から、人員を補充しても、納得するレベルまでには、仕上げられない…だから、断ったよ」

「え…」

それは、予想もしなかったことだった。

「実際には…あたしが、断ったのさ…」 

美奈子は、ため息をつくと、

「あたしが、演出者から消えて、他の劇団との共同になる。まあ…簡単に言えば、責任問題だ。あたしは…仕上げることが、できなかったんだがらな…」

美奈子の頭の中で、春奈が主役を演じることに、ほぼ決めていた。

しかし、春奈は失踪した。

春奈の正体を知った時、美奈子のイメージは、崩れ去ってしまったのだ。

< 94 / 227 >

この作品をシェア

pagetop