GEDOU―樹守る貴公子―
下に紅い衣と袴を身に付け、その上に黒い水干を纏う。
肉弾戦、流血戦を覚悟で臨む体勢だ。
黒い水干ならば、血液で濡れても大して目立ちはしないだろう。
外に出ると、天冥は未申の方角に走ろうとした。ちょうど、地を蹴って体をほんの少し前にかがめたそのときである。
「あれは・・・」
白い狩衣に烏帽子を被り、内側には浅葱色の衣をまとった、五十代半ばの男が天冥の向かう方向を見つめながら立ち往生していた。
その様子は実に凛としていたが、やはり老化のためなのか、その身の内から発される呪力は、天冥からすれば恐れおののくほど強くはない。
暗い闇夜の中で、天冥の瞳が光った。