GEDOU―樹守る貴公子―
「何をしておる・・・晴明」
天冥はひと際声を低くして唸るように言ってみせた。
暗闇の中、互いの姿はぼんやりとしか見えない。しかし、振り向いて天冥を見た稀代の陰陽師・安倍(あべの)晴明(せいめい)は天冥の姿を見て取ったように眉をしかめた。
「外道の貴公子・・・そなたこそ何をしておる」
「先に問うたのは俺じゃ。問いには答えよ、化け狐」
何とも口の悪い、これのどこに貴公子たる構えがあるのだろうか。
とでも言うように、晴明は小さく皺が刻まれた目をいっそう細める。いや、何よりも「化け狐」と呼ばれたのが気に食わなかったようにも見える。
「未申の方角に、禍々しい呪力を感じる・・・人ならぬものが、水面下で動き出しておる」
「ばかめ、何が「水面下」じゃ。やつらはもう「水面」に顔を出しておるわ。貴族のようにのうのうと生きておる者達は、気付かぬだろうがな」