GEDOU―樹守る貴公子―
天冥の口から、自然と水のように愚痴にも似た言葉が溢れ出てくる。
「では、天冥よ。そなたは何をしておる」
「あの山へ行くのさ」
「何をしにだ」
「それは、お前の知った事か?」
問いにちゃんとした答えを返すことなく、天冥は逆に質問した。
「いづれ都にも顔を出すであろう妖を倒して、英雄気取りでもするつもりか?」
「――妖どもから都を守るのが、方術を使う者の勤めではないか」
「ば―――っからしい」
「ば」だけを息が切れるまで伸ばした。明らかな笑止の意味と、晴明の言葉に対する侮蔑の念を含んでいた。
「方術を使えるなら人を守れだぁ?そんな言葉は、円満具足に育ってきおった者にしか言えぬ言葉じゃ」
「そなたなら、そう言うと思った」
「妖が悪事を働けば滅する。では人間の悪事は?俺から言わせれば、都の官人陰陽師など、皆、妖を人間の都合よく滅ぼしておるにすぎぬ。
妖の全てをを敵視し、それを生業としてもてはやされておるのはお前らじゃ」