GEDOU―樹守る貴公子―
言いたい放題言い、天冥はすっきりとした様子で続けた。
「俺は人を殺す陰陽師ぞ。しかし人を殺すが、妖は殺そうとは思わぬ。やつらは人間と比べればまだ腐っておらんからな」
「では、なぜ妖の呪力の漂うあの山に向かう?」
「おっと、晴明、お前は来るでないぞ。お前の出る幕はない」
「こたえよ」
「そうじゃなぁ・・・強いて言うなら」
天冥は歩き出し、晴明の横を通り過ぎた。「己の欲のためさ」
「欲だと?」
「当たり前じゃ。そうでなくば、俺は動いておらぬだろうさ。人のために動くなど、厄介の極み。俺は、俺のためだけに動く」
守るという気持ちは、義務感でも正義感でも使命感でもない。
天冥は、その感情を「欲」と称した。
「・・・外道め」
晴明は、どこか吐き捨てるような口調だった。