GEDOU―樹守る貴公子―
天冥は飛び降りると、幻周の前に降り立った。
「殺すぞ、お前」
ぞわり、と天冥が不気味に笑う。
天冥の呪力と幻周の呪力がぶつかり合う。
「だいたい、普通の人間なぞに邪魅が馴れる訳が無い。相手が妖でなければな」
「小僧の分際でやるではないか」
「お前に、この山は食わせぬ」
「お前に言う権利はあるのか?」
幻周は冷気を帯びた言葉を天冥に注ぎ込んだ。「見えるぞ、お前の心が」
「なんじゃと」
「おお、可哀相だ、なんと哀れな貴公子よ」
演劇か何かでも演じるような口調だ。
「親や友を朝廷に奪われ、閉じ込められていた少年の心を誰が救うたか。そなたを救い、そしてそなたが誰よりも想っていた者さえも殺められるとは――その苦しみを餌に、外道の貴公子は育ってきたか」