GEDOU―樹守る貴公子―


「・・・助太刀いたします」

「おやおや、邪魅の噂をどこやらで聞いたようだな」


 状況には不似合いな声の調子で天冥が言う。

 化け鴉――現時点では鴉魔(からすま)法師と呼んでおこう。鴉魔法師が錫状を横に振ると、邪魅たちの瘴気は扇で白煙を扇いだように剥がれ落ち、また出てくる。


「オン・エンマヤ・マラギヤン・デイ・ソワカ」

 
 瘴気を剥がされた邪魅たちを、天冥が狙い定める。

 邪気の塊の壁は、邪魅の肉体と同じように方術で滅ぼすことはできない。破邪の術を持ってして倒さなくてはならない。

 
「急々如律令!」


 呪符を放ち邪魅たちに当てると、黒煙を吹き上げて消滅した。と同時に、天冥の符を放った左手が、じゅっ、と音を立てて黒煙を上げた。「うっ―-」

 
 体感した事の無い、焼け爛れるような痛みに、天冥は悲鳴を上げた。


「っがぁぁっ!!」


 目の前が赤くなり、天冥は血だまりに膝を突く。ぺちゃ、と生々しい音を立てた。


 破邪の方術は「邪」の存在を退ける業。

 しかし、天冥は「邪」の存在に近いために、破邪の効力をその身に受けたのだ。











 
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