GEDOU―樹守る貴公子―


「そこまでして、何に必死になる?」


 幻周の声が暗闇に響く。響いては炎の中に消えていった。そして炎の中からも、木霊する。


「お前を必死にさせるものなど、何も無いはずじゃ。人にも、この娑婆にも絶望しきった厭世家のお前を、な」


 幻周は笑った。

 すると、天冥は一度顔を上げ「べっ」と口から出た血を飛ばした。


「寝言を言うな」


 天冥は舌を出し、なんとも不敵に笑って見せた。


「なぜそれを、お前が知る必要がある?」

「なんじゃと」

「厭世家だと言っておったが、俺は別にすべてが嫌いなわけではない」

「ふん」

「人はこの上なく冷たくこの上なく汚い生き物ぞ。しかしな」


 天冥はじっくりと幻周の耳に注ぎ込むように言い放った。


「それであって、なんだか見放せない一面があるのさ」


 頭の中に、莢の顔が過ぎった。



< 117 / 157 >

この作品をシェア

pagetop