GEDOU―樹守る貴公子―
「そこまでして、何に必死になる?」
幻周の声が暗闇に響く。響いては炎の中に消えていった。そして炎の中からも、木霊する。
「お前を必死にさせるものなど、何も無いはずじゃ。人にも、この娑婆にも絶望しきった厭世家のお前を、な」
幻周は笑った。
すると、天冥は一度顔を上げ「べっ」と口から出た血を飛ばした。
「寝言を言うな」
天冥は舌を出し、なんとも不敵に笑って見せた。
「なぜそれを、お前が知る必要がある?」
「なんじゃと」
「厭世家だと言っておったが、俺は別にすべてが嫌いなわけではない」
「ふん」
「人はこの上なく冷たくこの上なく汚い生き物ぞ。しかしな」
天冥はじっくりと幻周の耳に注ぎ込むように言い放った。
「それであって、なんだか見放せない一面があるのさ」
頭の中に、莢の顔が過ぎった。