GEDOU―樹守る貴公子―


――ぼぐっ!!


「・・・っ!」


 鈍い鈍痛が駆け抜ける。

 幻周の長く強靭な鱗に包まれた尾が、天冥の、しかも邪魅に切られた傷がある脇腹を打ったのだ。

 しかし、天冥の顔は痛みに歪んではいなかった。むしろ「待っていました」と首を長くしていたように唇を引きつってる。


「小僧っ、貴様さえ殺せば渾沌は静まる!」

「ほぉ・・・っ、邪魅どもを喰われて激昂しておるな。なんとも、短気よの・・・」


 耳の後ろでは、渾沌が次々と邪魅を喰らう音がする。もう間もなくすれば、渾沌はここにいる全ての邪魅を喰らい尽くすだろう。


 天冥は、再び勢いよく振ってきた幻周の尾を手で受け止めた。びぃん、と身体に振動が伝わる。

 刹那、右肩がに太い針のようなものが刺さった。

 幻周の爪が、深々食い込んできたのである。


「いきがるなよ、小僧」

「たれが小僧じゃ・・・」

「渾沌を召喚できたはよいが、この俺を殺せなくば意味はないぞ」

「馬鹿か、お前は」


 幻周の爪が遅く肉に食い込んできているにもかかわらず、天冥は平然を装った。







 








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