GEDOU―樹守る貴公子―
「なに?」
「俺はあの鴉にも、ましてや渾沌にも、お前を殺させるつもりはない」
「では、たれが俺を殺す?」
「俺さ・・・」
明道の、鴉魔法師の、幻周の視線が、天冥に注がれた。
「ほー・・・」
幻周は額に血管を浮かせ、長い爪を振りかぶった。
「ではその言葉、逆さにしてくれるわ」
天冥は二歩後ろに下がった。
しかし、それでは幻周の尾が届いてしまう距離だ。いや、天冥が避けようとしたのは幻周の攻撃ではなかった。
「ぐわぁっ」
幻周が炎に取り巻かれて悲鳴を上げる。
天冥は自分が操る炎から身を守るため、燃え移らぬように距離を取ったのだ。
「ぅぐう・・・」
それでも必死の体で幻周は執念という力で炎の中から這い出ようとする。
「―――」
天冥は強く握った拳を上に上げる。炎はぎりぎりと音を立てそうな勢いで幻周を締め上げる。