GEDOU―樹守る貴公子―



「おのれぇ・・・!」

 
 幻周が手を伸ばしてきた。術が破られつつある。


「・・・ふっ・・・」


 ごぽり、と天冥の口から血が溢れ出た。方術で、気力と呪力の両方をそぎ落としすぎたのだ。


 いかん、死ぬかも。天冥は久々に思う。

 膝を突いた。力が抜けて行く。――その時だ。


「死ぬな、天冥っ」


 縛られていたはずの明道が、荒縄を梳いてここまで来たのだ。


 明道は今にも倒れそうな天冥の肩をかき抱き、自分の身にある力で天冥の体を支えた。


「耳元で騒ぐな、ばか」

 たしなめながら天冥はぎりりと炎で締め上げた。


「―――ぁがぁっ!」




 幻周が、どこからかその手に出現した御霊を天へと放った。


 明道の体が、がくんと倒れる。


 幻周の姿が灰となって消えてしまうと、天冥は息をついた。













「・・・また、面倒臭いことをしてくれたわ、幻周よ」


 天冥はそう言いながら明道を見る。

 明道は、ぐったりとして首を垂らしていた。

 さきほど天に放たれたのは、他の誰でもない明道の御霊だったのだ。


「奴め、最後の足掻きに明道の魂を奪い取りて、三途に送りおったな」


 周りの邪魅など、気にならなかった。

 鴉魔法師は、その猛禽の瞳で恩人を見つめている。


 天冥は、一度外縛印を結び、唱えた。


「冥府の者よ」


 天冥の瞳は、僅かに霞みだしてきた。


「死を持たぬもの、招かれざるものを通さずば、その御霊、娑婆の土地へと返されよ―――」


 霞んだ泡にも似た消え入りそうな光をまとった右手を、明道に当てた。

 俗に言う『人を甦らせる術』にも似ているが、これは違う。

 明道は死んだのではなく、魂が抜けただけだ。

 そしてこれは『呼び戻し』となる術である。








 

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