GEDOU―樹守る貴公子―
それが生前と変わらないと思い、張り詰めていた天冥の呪力がひどく緩んだ。
莢の霊位は、自分達がいたところからそう遠くはなかった。
今宵の騒ぎを感じ、駆けつけたのかもしれない。
「・・・そうか。近くにいたんだな」
いや、そんなことなんてどうでもいい。
天冥の中で何かが歩み出た。
口で言っていることと違う事が頭に浮かぶ。
「だったら話は早い。明道を寄こしてくれ」
いや、明道なんて、今はどうでもいい。
明道より大切な人が、すぐ目の前にいるではないか。
誘惑とも悪意ともつかぬ心が、天冥の中で叫んでいた。