GEDOU―樹守る貴公子―



 莢は少し寂しそうな顔をし、明道を放り投げるように天冥に渡す。


 その顔には何とも懐かしさがあり・・・明道を持ち上げる力さえ抜けてしまいそうだった。


 目線が、集中力が、心が。


 全て莢に向かってしまう。



「・・・多優さん」



 少しうるるとした瞳が、天冥を捉える。



「俺は多優ではない」



「嘘・・・。私のことを名で呼ぶのは、あなたくらいしかいません」



 首を左右に振る姿は、どこか遠回しに何かしているようだった。


 天冥は少し黙って「何だ」と問うた。









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