GEDOU―樹守る貴公子―
しばらくして、自分が腰をかけている杉の木の下を誰がかが通る気配がした。
一人ではない。
複数の人間を連れている。
(なんだ?)
首を捻って下を見てみる。しかし、下は暗闇で全く見えない。
(ちぇっ)
天冥は神経を瞳孔に集中させた。相手の身体を取り巻く『気膜』から出る『気』を見る。
「ふん、大したことのない山じゃ」
太い声が響いた。
暗い中で、静寂とした空気をその声が突き抜けてゆく。
「まぁ、この山なら邪魅(じゃみ)に渡すのも悪くなかろう」
「し・・・しかし、貴船や船岡を襲うようになっては・・・」
「良いではないか。邪魅の力が広がる。そうさな・・・まずは桂川の神霊でも喰らわせようか」
「・・・」
あっ、と天冥は思わず口を開ける。
控えめに話している声は、今日、天冥に呪詛を依頼したあの貴族の男ではないか。
(あの男と・・・あれは誰だ?)
依頼してきた男のすぐ横にいる人間の姿が、把握できない。
把握できないほど強力な呪力で『気』を絶っているのだ。