GEDOU―樹守る貴公子―
「すまんなぁ、百鬼。俺も、少しばかり横になるかも知れぬ」
現在地は、天冥のいる破れ屋である。
天冥のやりたい事を大体理解した鴉魔法師は、こくりと縦にうなづいた。
天冥が手を額に当てて倒れる。
彼は、これから生きていく上で都合の悪い記憶を消すつもりでいた。
明道の事だ。
天冥はきっと起きた時には、幻周に挑んだのは自分だけと言う記憶が残っているだろう。
頭の中を、短い時間での濃密な記憶が走馬灯のように駆け抜けていった。
忘れてしまおう。
ここまでの間に考えた莢に関しての事も。
いや、しかし莢の存在だけはどう術を施しても忘れられないだろう。
そういえば、明道の言っていた『抱く』ってどういう意味だっけ。
哀れんでいる言い方だったから一応怒ったが。
まぁいいや、忘れよう――。