GEDOU―樹守る貴公子―
(野郎めっ・・・)
痺れを切らし内縛印を結んだその時だ。
「たれじゃ」
強力な呪力を放つその男が、上をむいてそう言ってきたのである。
「たれぞ、木の上に隠形して聞いておるな」
ざわり、と冷たい風が吹き抜け、月の光を弾く影の目が天冥を捉える。
「ちっ」
天冥はとっさの判断で別の木の枝に向かって跳躍した。
飛び石を踏むかのように、木々の間を縫うようにその場を去る。
「・・・もののけか」
「さぁ・・・」
「そういえば、お前の息子の始末はできたのか?」
「いや・・・まだ」
「はようしろ。なにをもたもたしておるのだ」
「・・・陰陽師に、頼んだ」
「なに?」
「聞いておるか?近々名を轟かせ始めた―――外道の貴公子」
「外道?そいつに依頼したのか?」
「・・・う、うむ」
「ふぅん」
影はほんの少しだけ興味を持ったように言うと、その目を光らせた。
「外道の貴公子・・・か、名は?」
「て、天冥・・・」
「ほぅ・・・良い名じゃ」
影が天冥よりも不気味な笑みを浮かべた。