GEDOU―樹守る貴公子―


 なので、いつも朝早くからあるはずの出仕もない。


 しかし、長い間引き離してしまった息子や娘をも遠ざけてしまうのも酷。


 屋敷の中ならいいか、という思いで狩衣を着て外に出た。


 すると。



「いたっ・・・」


 動かした手首が、痛い。


 唐から帰ってきてからの痛みであった。捻ってしまったようだが、原因がわからない。


 しかし、なんだか身に覚えのあるような気がした。


 抽象的に表せば、懐かしさがある。なにかをどこかに置いてきてしまった感覚。


 唐から帰ってきたときから、どこかぼんやりとしている。


『何を言うっ!それは違うっ!』



 おや?と明道の頭に上の通りの言葉がよぎった。


 若々しく、元気があって無邪気な声。




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