GEDOU―樹守る貴公子―
天冥は道祖大路をそのまま真っすぐ歩いた。
勿論、烏帽子を被り付け髭をつけた貴公子の姿で、だ。
烏帽子に口ひげなど付けてどこが貴公子だ、と天冥本人は鬱陶しく思ったことが幾度かあるが、周りを見るとそんな公卿の若者ばかりなので、仕方なく従っているのである。
「いやぁ、その烏帽子と付け髭、色男が台無しじゃな」
聞きなれた声に、天冥はふと振り向く。
頭のてっぺんは禿げているが、それを取り巻くように黒髪が後ろに垂れた、中年と老人の中間辺りといった年齢の男である。
真っ黒な水干(すいかん)を身にまとい、首に数珠をかけて垂らしていた。
天冥はその男を知っていた。
「道満(どうまん)殿か」
蘆屋(あしや)道満―――かつて安陪晴明と敵対したといわれている、播磨(はりま)の大陰陽師である。
そして、天冥が珍しく明るい顔を見せる相手の一人でもある。
「うまくやっておるか?」
「ええ、そこそこは」
「憎き貴族や役人を人知れず痛ぶれて、さぞ楽しかろうなぁ」
「そりゃあ、もう」
天冥は頭の後ろを掻く。
「今は外道として、民間陰陽師としてうまくやっておりますよ」
「ふぅん、ぬしにしては上出来ではないか。『外道の貴公子』よ」
『外道の貴公子』―――つまり、天冥のことである。