GEDOU―樹守る貴公子―


 天冥は道祖大路をそのまま真っすぐ歩いた。

 勿論、烏帽子を被り付け髭をつけた貴公子の姿で、だ。

 烏帽子に口ひげなど付けてどこが貴公子だ、と天冥本人は鬱陶しく思ったことが幾度かあるが、周りを見るとそんな公卿の若者ばかりなので、仕方なく従っているのである。


「いやぁ、その烏帽子と付け髭、色男が台無しじゃな」


 聞きなれた声に、天冥はふと振り向く。

 頭のてっぺんは禿げているが、それを取り巻くように黒髪が後ろに垂れた、中年と老人の中間辺りといった年齢の男である。

 真っ黒な水干(すいかん)を身にまとい、首に数珠をかけて垂らしていた。

 天冥はその男を知っていた。


「道満(どうまん)殿か」


 蘆屋(あしや)道満―――かつて安陪晴明と敵対したといわれている、播磨(はりま)の大陰陽師である。


そして、天冥が珍しく明るい顔を見せる相手の一人でもある。


「うまくやっておるか?」

「ええ、そこそこは」

「憎き貴族や役人を人知れず痛ぶれて、さぞ楽しかろうなぁ」

「そりゃあ、もう」


 天冥は頭の後ろを掻く。


「今は外道として、民間陰陽師としてうまくやっておりますよ」

「ふぅん、ぬしにしては上出来ではないか。『外道の貴公子』よ」


 『外道の貴公子』―――つまり、天冥のことである。








< 18 / 157 >

この作品をシェア

pagetop