GEDOU―樹守る貴公子―
「貴公子では、ないような気がしますが」
「まぁ。ぬしは烏帽子と髭をとれば、そこそこの色男じゃからな」
「色男でも、ない気がしますが」
「馬鹿め、鏡見ろ」
かっかっかっ、と道満は高らかに笑う。
「『外道』という言葉を用いた異名が誰を示すものか、分からぬ者はおらぬ」
「でしょうな。外道の陰陽師に外道の貴公子に、あとは・・・なんだっけ」
「数え切れぬくらい罵られておるな、ぬしは」
「まぁ、もう一度それ言う事は皆無ですがね」
「殺されてしもうたからな、外道に」
「ふん」
それがどうした、と殺された者たちに言うように、天冥は鼻を鳴らす。
「まぁ、今こうしていられるのも、あの日、道満殿が忠告してくれたお陰じゃ」
「それは、よかった」
道満は意味ありげに笑った。
「あの日、首を斬られるはずだった俺に逃げる選択を与えたのも、俺に『天冥』という名を与えてくれたのも、その後しばらくかくまってくれたのも、術を教えてくれたのも、道満殿じゃ」
天冥は、心から思っていたことを言った。
『それは、よかった。―――多優よ』
先ほどの言葉を繰り返すと、フワリと道満は隠形した。いや、姿を消したのである。
天冥の中には、道満が呼んだ自分の本名がこだましていた。