GEDOU―樹守る貴公子―
心の顔
「だからって、こんなことしなくても良いではないか」
「だぁめだ。しっかりと目隠しはするからな」
天冥は京までの道のりの間、明道に目隠しをして歩かせた。
なぜなら、自分の居場所が貴族に流出するのを防ぐためだ。
卯(う)の刻(ざっと七時から九時あたり)ほどに京につき、天冥は目隠しの布を取る。
「特別だぞ。お前がどうしても息子娘の無事を確認したいと言うから」
「分かっておる」
どうしても、子供達の安否が気になった。
何もされていないだろうか、幻周が手を出さないだろうかと明道は心配でならなかったのだ。
「そう言いながらも連れてきてくれる天冥も、存外情け深い男だな」
褒めたつもりだったのだが、天冥は明道の烏帽子をがっちりと掴んだ。
「勘違いするな。俺は俺で京に用があっただけじゃ。そんだけ」
「わわっ」
外れかけた烏帽子を慌てて直す。
実は、貴族にとって烏帽子が外れて髷が見えることはこの上ないほど恥ずかしい事とされていたため、明道は焦ったのだ。
「なんてことをっ、烏帽子が外れるところだった」
「そんな帽子、外れたってなんともならぬだろうが」
「天冥・・・自分が烏帽子外された時の気持ちを考えてみろ」
「なんじゃそれは」
天冥は呆れたように言うと、何のためらいも見せずに烏帽子を外した。