GEDOU―樹守る貴公子―
「まぁ・・・お前から見れば、特別扱いしてるように見えるがな。こいつだけは、と思うことだって、幾度もあった」
「さきほどから『こいつ』と呼んでいるが・・・この木、人ではないのか?」
「人・・・と言うより、霊位?」
霊位とは、死んだ人間の魂が乗り移った、また形代のことを指す。
「ということは、天冥がこの木を大切にしている理由は、この木にその大切な人が乗り移っておる、と言うことなのか」
「正しくは、その下にむくろが埋まっておるのだがな」
天冥は苦々しく言った。
「俺はこいつに何もしてやれなかったから、こうして埋めたのだ」
「では、この木もお前が――」
「ああ」
天冥の瞳は今にも消え入りそうであった。少し息を吹きかければ、その灯火が鎮火してしまいそうな、萎びた光だ。
「俺は今まで誰一人として守り通せた事がない。だから、こうして邪魅の手からこいつを守る」
言葉の割にはなんとも簡素さが半分以上を占めている声だ。声に感情がこもった様子がなく、声だけを聞いたなら、台本を棒読みしているように聞こえるだろう。
しかし、明道は目を疑う姿を見た。
天冥の瞳から、ぼろり、ぼろり、と大粒の雫が零れ落ちたのである。
泣き顔にも怒りの形相でないにも関わらず、涙だけが、その日本刀のような瞳から零れたのだ。