GEDOU―樹守る貴公子―


 天冥は軽い足取りと弾んだ歩調で鴉に近づく。いつの間にやら、天冥の周りにあった炎が静まっている。


「よう頑張ったなぁ。邪魅どもを相手に鴉の化生が一羽で」

 
 天冥は懐からどこから持ってきたのか長い麻の布を取り出し、それを潰れて出血している鴉の左目に巻きつけた。


「痛々しいというか、散々じゃな。うん?」


 ぐるぐると巻きつけると、天冥は鴉の背を押す。鴉は一時唸りだしたが、天冥の瞳を見るや、ばさりと舞い上がって宙を駆けていった。

 地面には、血液と思しきものが残っている。








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