GEDOU―樹守る貴公子―
「――道満殿が別の名で俺を呼んだのを覚えておるか?」
「ああ、覚えてる」
そう、道満が『多優』と言う名を口走った時、天冥が威喝の念を込めた声を上げたのだ。
「あれが、俺の名前さ」
「ちょっと待て」
明道は曖昧な記憶の糸を手繰り寄せた。
4年ほど前、貴族や武官、役人、全てに知れ渡った大事件。炎を操り幾人もの人間を殺めたといわれた青年『多優』がその犯人といわれている。
背中にいくつもの矢が刺さったまま失踪したため今は『死んだ』と思われて、雲隠れとなってしまっているが。
「まさか、4年前のあの事件、多優とはお前の事なのか?」
「そうさ」
「何故、あのような事を――」
「まぁ聞け。そうすればおのずと見えてくるさ」
天冥は上向きに、無理矢理に唇を歪めて見せた。