GEDOU―樹守る貴公子―
「俺とは正反対の女でな、名を莢と言った」
「く、薬師の?」
「知っておるか?」
「まぁ・・・腕が良いとのことで、少しはな。あと」
「あと?」
「あれだ、面持ちが美しい女だったとも聞いている」
「確かに、綺麗じゃったな」
懐かしそうに、天冥は顔をほころばせる。だが、なんだかその目は涙を溜めているかのようにきらきらと光っている。
「死んだがな」
「死んだのか?私はてっきり、どこか遠出に出ているのかと・・・」
「ま、死体が無いから、国外に出ていた者は分からぬだろうな」
「どうして」
「まぁ聞け」
天冥はいつしか言った言葉を真似た。紫色の具合の悪そうな唇で弧を描き、苦笑にも似た笑みを浮かべる。