GEDOU―樹守る貴公子―


 莢とは、元々平安京にいた薬師に引き取られた子供であった。


 老若男女、それどころか妖さえ区別しなく、憶病なくせに本質的な恐ろしさを持たぬものは全く怖がらない、隻眼の持ち主だ。

 髪の毛は柔らかい黒髪、白兎のように肌が白く、頬は桃のように薄紅色。全体的にほっそりとした女性であったが、その腕は「女だから」と舐められるようなヤワなものではないそうだ。


 とにかく、外見も中身も共に評判がよく、男が放っておかぬほどの者であった。


 そんな女が助けたのが天冥、昔の多優である。


 家の丁度前に、複数の矢を背に負って傷が元で気を失っているところを、莢が助けたのだ。


「それで、どうしたのだ」

「俺の情けない話さ。助けてもろうたにも関わらず、俺はすぐにそいつの許から逃げ出した」

「なぜだ」

「言わぬ」


 天冥は即答した。言いたい事ではなかったからだ。

 久しぶりに触れた『人の温かみ』を思い出し狼狽してしまった、なんて、言えぬではないか――。


 



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