GEDOU―樹守る貴公子―
「その後しばらくの間、道満殿に世話になってな」
「それで、仲が良かったわけか」
「ああ。それでふとあいつのことを思い出した」
「――」
「それで、まぁちょっと恩を返すくらいならいいと思って、山へ行ったのさ」
「山へ?」
「薬草やら何やらを届けてやろうと、思ったのだ」
それだけではないくせに。
天冥の中で『多優』が叫ぶ。
本当はただの恩返しが目的ではなく『一時でも多く多優として生きたかった』という欲求と『自分が抱いていた想い』が優先されたものだという事を、天冥はあえて言わなかった。
『本当は恩返しなんて、ただの『口実』に過ぎぬのだろう?』
うるさい、黙れ。
自分の中から込み上げてくる声に、天冥は一括を入れる。