GEDOU―樹守る貴公子―


「お前は、懸想されておったのか?」

「誰に」

「薬師、に」


 すると、天冥はこれでもかと言うほど瞠目した。烏帽子を取り、付け髭も取って髪の毛を垂らして下に引っ張る。

 
 あ、これはきっと赤らめているな。明道から見てもすぐに分かった。


 こういうことに関しては、天冥は結構分かりやすい。


「・・・そ、それは」


 お、これもしかすると自覚があったか?

 そっと顔を上げると、天冥は「なんとなくは、分かっておった」と、消え入りそうな声でそう言った。

 そう、うすうす勘付いてはいた。

 自分の前では妙に恥ずかしがっていると言うかそわそわしていると言うか、人間はそういうことは自然と直感で感じ取るようだ。

 現に莢は、多優に想いを寄せていた。

 口先ではまったく感じ取れないが、垣間見せるその本性が、莢を惹きつけたのである。


『子供が、好きなんですね』


 童を見ていた当時の多優に、莢が言った言葉である。


『なぜそう思うのだ』

『子供を見る多優さんの瞳は、普段より優しいから』

『子供が好きなんじゃなくて、大人が嫌いなだけじゃ』

『じゃあ、私も?』

『・・・お前は、どっちでもない』


 あの時、どうしてあんな事を言ってしまったのだろう。

 どうして、恥ずかしがってそっぽを向いてしまったのだろう。

 どこか悲しげな顔で苦笑した莢の顔が蘇った。



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