GEDOU―樹守る貴公子―
最も、一番望んでいた事と言えば、足る事を知っていて、優しい都人と結ばれてくれたら、自分はどんなに今楽だったろう。
どんなに、今の遺恨の念が和らぐだろう。
自分のことなど、さっさと忘れてくれれば、嫌いになってくれれば良かったのに。
そうすれば自分も、早く「天冥」として生きることが、「天冥」となることへの苦を感じずに済んだかもしれない。
何より――――。
『あなたの・・・せいです』
死因が分からぬまま、命を落とした莢。
その莢が最後に言った言葉がそれである。
『何か・・・思い残すことはあるか?』
そう聞いた多優への返答。俺のせい?と今でも返してやりたくなるような台詞だった。
そう言った時の莢は、少し悪戯っぽい顔をしていたのを、天冥は覚えている。
「・・・そういう、ことか」
明道には、その言葉の意味が判った。
この世に悔いが残るのはあなたのせいです。
唯一の悔い、多優に想いを寄せたまま成就できなかった事だ。鈍い天冥には、到底判るはずのない謎かけだ。