クロス†ハーツ
恐ろしく笑顔で、そして低い声で私に囁く。
しばらく凍り付くしかなかった。
すると、雅矢くんが資料のダンボールに近づいて。
「この資料は、僕持っていくから」
「え…っ!?だめだよ!雅矢くんが、そんな、」
「でも、薫が忙しいのは事実だし、資料室に返しに行かないと、怒られるのは委員長の薫だしね」
雅矢くんの言うことが正しすぎて、私は何も言えなかった。
それを良いことに、雅矢くんはダンボールの元へ歩み寄る。
水瀬は飽きたのか、何も言わずに元々していた仕事に取り掛かったようだ。
周りの光景を見た瞬間、なんだか罪悪感が一気に私の中に現れて。
考える前に、口が動いてしまった。
「雅矢くん!ごめん、それ…、やっぱり私が持っていく」
私の言葉を聞いた瞬間、水瀬と雅矢くんが同時に私の方を向いたのが分かった。
視線がいたたまれなくて、私は言葉を続ける。
「私が頼まれた仕事だから!」
「でも凛ちゃん…、コレ本当に重いでしょ?」
「大丈夫!これくらい出来ないと。それに、雅矢くん仕事中だったでしょ?」
そう言いながら、私はダンボールを持ち上げる。
本当に重くて、手が痛かったけど、ここで引き下がるわけにも行かず。
「じゃ、行ってきます!」
「き、気をつけてね…?」
水瀬の満足げな笑みと、雅矢くんの心配そうな顔と、早菜さんの説教を背中に受けながら、私は視聴覚室を出た。