クロス†ハーツ
*
「うー…、最悪だ…」
私は視聴覚室の前で顔をしかめつつ悩みこんでいた。
今日は一週間後に行われる文化祭の会議なのだ。
そんな日に限って私は寝坊。もう30分近くの遅刻である。
サド委員長が怒って、ここぞとばかりに自分をいじめる姿が容易に想像できて、私は視聴覚室前に立ち尽くしていた。
「あれ、お前も遅刻?」
「え…!?」
いきなり後ろから声をかけられ、肩を震わして瞬時に後ろを向いた。
そこには、こんな時間だというのに、全く急いだ様子が見られない尚人の姿があった。
「…早菜さんに怒られるよ?」
「いいよ別に。慣れてるし」
自分が遅刻していることも忘れ、私は呆れ顔で尚人を見る。
その視線に奴は気付こうともせずに、私がしばらくの間、開けられなかった視聴覚室の扉を、何の躊躇いもなく開けた。
「あっ!尚人待っ…」
その言葉は全く意味をなさず、視聴覚室の扉は空気の読めない尚人によって、完全に開けられてしまった。
視界に広がるのは、視聴覚室中央にある机に向かってソファーに座る3人の姿。
「やっほー、仕事してる?」
「…」
尚人の場違いなしまりのない声が響き、早菜さんと雅矢くんがこちらを振り向く。
水瀬はボーっとした様子で、こちらを見ずに一点を見つめたまま。私にとっては、それがさらに恐怖を増幅させた。