クロス†ハーツ
「ばか尚人!遅刻してきたんなら、それらしく入ってきなさいよ!」
「なんで俺ばっかなの、早菜ちゃん!」
「凛ちゃんは見るからに反省してるからよ!」
早菜さんと尚人のいつもの言い争いが、強張った私の体をだんだんと元に戻してくれる。
目の前でやりとりされる2人の会話を聞いていると、トンと肩を叩かれた。
何の警戒心もなく振り向くと、そこには真顔の水瀬。
まるで何を考えているのか、分からない。
「み…っ!…水瀬、」
「あのさ」
「ぅえっ!?…はい!?」
とっさに遅刻の言い訳を言おうとすると、いきなり話を遮られ、変な声が出てしまった。
無意識に後ずさりをすると、水瀬に両手で肩を掴まれる。
「ひぇ…!?ご、ごめんなさ――」
「…中等部の生徒会長、お前の弟なのか?」
身の危険を感じて、必死に謝ろうとした時。水瀬の口から出てきた言葉は、私の予想外のものだった。
あまりにも予想外だったし、肩も掴まれてたしで、すぐに答えが出ない。
すると、今までの成り行きを見ていたのだろう雅矢くんが、私達の間に入ってくれた。
「薫、そんな真顔で突拍子もないこと聞いたらびっくりするから。まず手、離してあげなよ」
「あ、あぁ…」
雅矢くんに言われ、水瀬は案外あっさりと、私の肩から手を離してくれた。