クロス†ハーツ
「水瀬…、怒ってるの?」
「お前、抵抗すれば切り抜けられるとかなんとか言ってなかったっけ」
「そうだけど…、友達に頼まれたし…」
「ちょ、薫。しょうがないでしょ。凛ちゃんのクラスの事情なんだしさ」
怒ったような低い声で言う水瀬を、雅矢くんがなだめてくれる。
すると、水瀬たちの次のお客さんが入ってきたのか、遠い所から声が聞こえた。
「あ、やば。隠れなきゃ…!」
「じゃ、凛ちゃん、また後でね。薫は任せて!」
「凛ちゃん頑張って。あと少しよ!」
「じゃーなー」
水瀬以外の3人が去りながら手を振ってくれるので、私も振り返す。
そして、早く手作りのセットの裏の隠れ場所に行こうとすると、いきなり強い力で肩を掴まれ、後ろに引っ張られる。
「…へ!?」
「お前、」
予想できなかったことに小さく叫ぶと同時に、水瀬の低い声が耳元に伝わる。
「そんな格好で、襲われんじゃねーぞ」
水瀬は一言そう言うと、すぐに私の肩を離して出口に向かって行った。
「何アイツ…!」
息づかいまで聞こえた今の言葉に、数秒間放心状態になりながらも、私はなんとか隠れ場所に戻った。