クロス†ハーツ


「だ、大丈夫?そんなに噂、ショックだった…?」

「違くて…、水瀬が――」

「水瀬?」


とっさに出てきてしまった水瀬の名に、葵が私の言葉を遮って反応した。
振り向くと、あからさまに不機嫌な顔をした葵が、ソファーから起き上がってこちらを見ていた。


「水瀬が、何?」

「え、あ、なんでもない!葵、どしたの?そんな機嫌損ねて――」

「別に!…なんでもねーよ」

「……」


葵はまた私の言葉を遮った。
明らかになんでもなくはない顔をしながらも立ち上がる。


「俺、もう寝る。明日も忙しいから」

「え、葵…!?」


そう言って、私の横を通り過ぎる時に名前を呼んでも、葵は振り向かない。

その状況を黙って見ていた唯が、ため息を吐いて「おやすみ」と言うと、葵は背中を見せたまま手だけ挙げて、2階に上がって行った。




「何よ。…みんな不機嫌になっちゃって…!」


葵も、そして水瀬も。


< 54 / 77 >

この作品をシェア

pagetop