クロス†ハーツ
「それって、…水瀬さん?」
「へっ…!?」
2階に消えた葵の背中を見送ってため息をつくと、後ろから唯の声が聞こえ、不意に出てきた名前に心臓が跳ねた。
「え、なんで水瀬…?」
「だって凛ちゃん、今『みんな不機嫌』って言ったもん。だからなんとなく、水瀬さんかなーと思って」
ニコニコ微笑みながら言う唯に、何も言い返せなかった。
葵のさっきの態度なんて、すっから忘れてしまった。
「なんで水瀬だと思ったの?」
微笑んでいる唯に、恐る恐る聞いてみる。
すると、唯はさらに笑って。
「だって凛ちゃんが文句を言う人って水瀬さんしかいないから」
「え…?」
唯の言葉になぜかまた心臓が跳ねた。
「凛ちゃん、人の悪口とかあんまり言わないし、顔にも出ないでしょ?でも、水瀬さんのことにはストレートだから」
「そ、そうかな…?」
なぜこんなにも焦ってるんだろう。
それほど水瀬のことが“嫌い”なんだ、って考えるのが普通なのに。
でも、私の中の何かが『それは違う』と言っているような気がして。
私はなんだか不思議な感覚だった。