クロス†ハーツ
パシン…!
ため息をついた帆香ちゃんが、不意に会長の頭を叩いた。
…なんか、今、すっごい音鳴ったんだけど…。
そんな私の思いをよそに、帆香ちゃんは明らかに痛がっている会長を完全に無視している。
……さすが、副会長様。
「ね、凛ちゃん。そいえば昨日の猫、すっごい噂だったよ?」
「え、」
「お化け屋敷の暗闇に、あの猫は反則だ、とか男子がすっごい騒いでたし」
「…」
そういえば、噂流れてたんだっけ。
小夜、恨んでやる。
私が一人ダークなことを考えているとも知らず、帆香ちゃんは明るい声で話してくれる。
「でもね、女の子はほとんど同情してたよ。可哀想って。ま、凛ちゃんが自ら進んでやったなんて思えないしね」
「う、うん…。小夜、なんだけどね」
「さ、よ…?」
突然、今まですっかり声を発さなかった会長が話し出す。
私は不思議に思って、会長の方に顔を向けた。
「小夜…、知ってるの?」
「あ、うん。ちょっとね」
会長が意味深に微笑み、私は意味が分からなかった。
すると、いきなり帆香ちゃんが声をあげる。
「あ!こんなことしてる場合じゃなかった!仕事!あ、凛ちゃん、今日も頑張ろうね!じゃ!」
「え…!?」
帆香ちゃんは一気にまくし立てると、そのまま会長を引っつかんで走り去って行った。
その後ろ姿を、首をかしげながら見ていると。
「てめー、廊下でおしゃべりとは、良い度胸じゃねーか」
最高に低い声が背後から聞こえて、私は身震いせずにはいられなかった。