女王様のため息
司は部屋に私を押し込めると、部屋の中央に備え付けられている応接セットのソファに私を座らせた。
そして、訳が分からないまま司を見つめる私から視線をそらして腕時計をちらりと見遣ると、
「5分で、真珠の気持ちに区切りをつけて欲しい」
低い声で、ゆっくりと私に告げながら、まっすぐな視線は揺れる事なく私を射る。
そんな言葉を聞かされるなんて思ってなかった私は、思わず顔をしかめて
「え?区切りって何の事……?」
私の隣に腰を下ろした司に首を傾げて見せた。
「海……彼との深い絆を断ち切れとは言えないけど、彼に向ける淡い想いを手放す努力をして欲しい。高校生の頃の二人の関係から抜け出して、区切りをつけてくれ」
司の口調には、何のためらいも感じられなくて、きっと今思いついた言葉を口にしたわけじゃないとも教えてくれる。
思いつめているかのように口元を引き締めた司の心情が切なさに溢れているように見えて、私の気持ちも同じくらいにきゅっと引き締まっていく。
冗談でも、思いつきでもない。
ずっと私に言いたくて仕方がなかった事なのかもしれない。
これまでの司と私の曖昧な関係に悩んでいたのは私だけではない。
きっと司だって同じ思いを抱いていたに違いない。
だからこそ、私にはわかるのかもしれない。
司が私に求めているのは私の真摯な答え。
そう気付かされるのに長い時間は必要なかった。
今目の前にある司の表情を見ればわかる。
だからと言って司が私に求める答えをどう出せばいいんだろうかと。
海への淡い思いは高校時代から抱えているもので、今では形を変えて身内への親愛の情となって私の中に居座っている。
そんな思いを簡単に手放す事なんて、できるんだろうか。