女王様のため息

膝の上でぎゅっと握りしめていた私の手の上に置かれた司の手。

その手は冷たくて、司の緊張感が伝わってくるようで、思わず見上げると。

悲しみとも、切なさとも、たとえられないほどに追い詰められたような表情が私に向けられていた。

仕事に対しても何に対しても、どこか余裕を持っている司のそんな様子に驚いて、ただ見つめ返しながら私が感じたのは、司の手の微かな震え。

その震えを止めるかのように、ギュッと私の手を握る司。

それでも震えは私に伝わってくる。

……こんな時に、どうかとは思うけれど、今、まさに今。

司の気持ちが愛しくて仕方がない。

私を想って震えている手の冷たさが、逆に私の気持ちを温かくしてくれるようで、ずっとこのまま握っていて欲しいとすら思ってしまう。

必死に気持ちを伝えようとしてくれる司には申し訳ないけれど、そんな必死な司に、私の全部が持っていかれるようで、なんだか気持ちがいい。

今見せられている司の様子に、私がこれまで抱えていた後ろ向きな不安が洗い流されていくようだ。

司の言葉だけを信じていいんだと、思えるし、司の近くに見え隠れする美香さんの存在だけに囚われなくてもいいのかな、と明るい気持ちにもなっていく。

そんな私の気持ちは、司には伝わらないようで、ただ私に一生懸命な気持ちを伝えてくれる司。

「限界だって言っただろ?もう、何もかも、限界だ。真珠を誰にも渡したくない」

低くて重いその言葉が、私の中に染み入る。

嬉しさと切なさと戸惑い。

たくさんの感情が混在して瞬き一つ自由にできない自分に気づく。

そして、そんな状態の中で、たった5分。

たった5分で私の海への気持ちに区切りをつけて欲しいなんて。

どこまで無理な言葉を。

どこまでときめく瞳を、私に投げるんだろうか、この愛しい男は。
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