女王様のため息
「海とは、別に何もないよ……」
ようやく気持ちを整えながら、小さく呟いた私の声は、
「何もないわけないだろ。誰だって、特別に仲がいいってのはわかる」
司の低い声に遮られた。
司は、言おうか言わずにいようか、ほんの一瞬悩むように眉を寄せていたけれど。
苦しげに私の顔を見ながら。
「入社してからずっと、俺と真珠との浅い関係に悩んでいたんだ。
それでも、俺には美香がいたから、何も言えなかった。
真珠を他の男にとられないか、悩んでいるのにそれすら口にできないもどかしさを抱えていたんだ。
真珠に惚れて、それでも手を出せない苦しみは、半端なものじゃなかった。
俺が美香から離れれば良かったけど、美香の命もかかっていたから簡単に離れる事も出来なくて。
そんな俺は真珠を見つめる事しかできなかった。
だから、真珠に一番近い男の存在と、真珠の中でのその男の立ち位置に敏感になって。
海……彼との関係に気づかないわけがない。
確かに気持ちも体も海に攫われたわけじゃないとわかってるけど。
それでも彼との関係が単なる親戚じゃないってのはすぐにわかった」
私の目をしっかりと見て、思いを吐き出してくれる司に、これまで感じた事がないほどの弱々しさが感じられて、戸惑った。
そして、司が紡ぎだした言葉よりも、その目に現れる不安定に揺れる瞳の色の方が私の心により深く届くと気づいた。