女王様のため息

私の事を大切に思ってくれて、側に置きたいと願ってくれているのならば、司のこれまでの苦しみに申し訳なくもなるけれど。

司には美香さんという彼女がいたんだから、私には海との関係を断つという選択肢なんてなかった。

逆に海が側にいてくれるおかげで、司への不毛だと思っていた恋心を隠すことだってできた。

そして何より、海はわたしにとってとても大切な存在だから。

海と距離を置いたり、付き合いをやめたり、そんな事できない。

恋愛感情とは違う、本当に親しい人。

それが単に異性だというだけの、大切にしたい人だから、海との付き合い方を変える事は、難しい。

そう感じながらも、今目の前にある司の弱々しい瞳によって、そんな気持ちも遠くに押しやられる。

司が傷つく事は、なるべく避けたい。

司の事、本当に大好きだから。

大好きだと、その気持ちが私の中で一番大切にしないといけないもので、素直に口にすることができなかった苦しい思い。

その気持ち、これからは隠さなくていいのかな……とふと思うと。

「海がだめなら、美香さんも、だめだよ」

感情よりも口が先に、ってこういう事なんだ、とはっと気づくくらい、思わずそう呟いた。

「あ、だって、また、司を頼って連絡してきたり、会いに来たりしたら嫌だ」

自分が呟いた言葉に驚いて、慌てて繋いだ言葉が自分の本音だとわかる。

「えっと……美香さん……司の事……まだ好きだったりしたら、どうしよう」

俯きながら、だんだん小さくなる声とは逆に、私の中に大きくなっていく怖さ。

そう、怖いのは、時間だ。

司と美香さんが築いてきた長い時間の重さが怖くてたまらない。