女王様のため息
きっと、美香さんの弱さ全てを支えてきた司だから、これから先も、美香さんに何かあったらきっと彼女のもとに行ってしまう。
たとえ恋愛感情とは違う思いによるものだとしても、美香さんへの情は消える事はないはずで、それに、恋愛感情の根本は人と人との繋がり。
人として、美香さんの苦しみを掬い上げてきた司が、簡単に彼女から離れるとも思えない。
そんな未来を簡単に予想できるから、どれだけ苦しんで、どれほど司を想っていたかという過去を背負う私でも、お互いの重なり合った気持ちだけに溺れて司の胸に飛び込むことはできない。
「司と一緒にいられる幸せも、私の事を好きだと言ってくれる愛しさも確かに感じるけど……同じくらい不安。
私が海と一緒にいる事に、司が不安に思うのと一緒だよ……」
司と気持ちが寄り添い合って、『真珠を恋人として側に置きたい』
そう言ってもらえた時に感じた不安の正体は、これだったんだとわかった。
ずっと司の胸に飛び込んでいいのかどうか悩んでいたのは、飛び込んだ後に美香さんの側に駆けつける司の後ろ姿を想像できたからだ。
司は私のものじゃないという、気持ちを抑えるための枷が外れてしまえば、そこからは我慢できない。
恋人として私を大切にしてくれる傍らに、いつも美香さんの存在と不安を置いたままでは、私の気持ちは壊れてしまう。
だから、私の全てを司に預けられないんだ。
「私、司の側にいても、ずっと不安なままだと思う……」
笑っているつもりで呟いたのに、司の瞳に映る私の顔は、泣いていた。