女王様のため息
②
午後からの仕事がひと段落したのは4時を過ぎた頃だった。
株主総会の準備が徐々に始まっていて、日常業務に加わる季節物の仕事の量も増えてきた。
疲れた体を伸ばして、残業決定の残務の段取りを考えていると、さっき雨宮さんから預かった書類が目に入った。
未決箱に入っている他の書類も含めて、急いで課長に回さないといけない。
慌てて箱ごと抱えて課長の机に向かいながら。
そういえば、研修部に顔を出すように伝言されたっけ。
あー、今日は何時まで残業になるんだろう、思わず顔をしかめて大きく息を吐いた。
* * *
研修部がある階は、ビルの上層階で、役員フロアに近い事もあり静かな空気に包まれている。
何度来ても慣れない温度に緊張しながら覗くと、入り口近くに座っている女の子と目が合った。
2年目だったかな、しっかりとした仕事ぶりが評判。
今日の午前中の新入社員研修も、彼女が窓口だった。
「忙しいのにごめんね、部長、いるかな」
静かな空気に添うように、小さな声で聞くと、彼女はにっこりと笑って
「はい、部長から聞いています。会議室を陣取って仕事していらっしゃいますのでご案内しますね」
立ち上がって私を案内してくれようとする彼女を慌てて制した。
「あ、いいよいいよ。会議室ならわかるから、そのまま仕事続けてちょうだい」
忙しそうな彼女に申し訳なくて、私は一人で会議室に向かった。
「あ、あの、専務もいらっしゃいますので、そのつもりで……」
「は?専務ー?あのおじさん……またさぼってるな」
「え?おじさん……」
「あ、なんでもない、ごめんごめん、ありがとうねー」
思わず『おじさん』なんて呟いた私の言葉に驚いた彼女の顔をそのままに、私は足早に会議室に向かった。