女王様のため息
「研修部に異動っていうのはその通りなんだけどね、実は、来期から研修部の拠点を増やすんだよ。これまでは本社が一括して社内全体の研修を担ってきたけど、社員数も増えているし、本社内の研修部だけで各階層の研修を実施していくのは物理的に難しくなってきたんだ。
だから、研修部を西と東に分けて、社内研修をもっと実りあるものにしようってことになって、真珠さんに西エリアの戦力として頑張ってもらおうと思ったんだよ」
「西エリア……ですか?」
すらすらと話す部長の口ぶりからは、私への異動の説明内容をあらかじめ考えていたんだろうと思えた。
私がどう受け止めても、とりあえずは必要な情報だけは話しておこうと決めていたんだと感じる。
ほんの少し、窮屈な気分だ。
まるで逃げられないぞ、とでもいうような二人のにこやかな表情が怖くもある。
「西エリアって、具体的には、どこに異動ってことになるんでしょうか」
この話を受けるか受けないか、まだ自分の気持ちが固まったわけではないけれど、一番気になるのはそのことだ。
入社以来本社で働いていた私には、どこに勤務先が変わるのかが一番気になるし、それ次第では断ることもある。
私の質問を予期していたかのように頷いた専務は、本社から新幹線で2時間ほどの都市の名前を口にした。
それを聞いて、思わず体が強張ってしまった。
そんな自分を落ち着かせるように小さく息を吐いた。
まさしく転勤だ。
仕事だけじゃない、生活拠点ごと、変わってしまう。
思わず黙り込んだ私を気遣うように、部長も専務も、心配げな瞳を私に向けてくれた。
けれど、今聞かされた言葉を撤回する様子はまるでなくて、決定事項を通達されただけだと、嫌でも気付かされた。