女王様のため息
異動の話を伝えられた後、総務部へと戻った私に気遣わしげな視線を投げてくる部長と目が合った。

心配そうな表情の部長に、小さく笑って、とりあえず自分の席についた。

部長は事前に知っていたんだなと、小さくため息。

これまでの会社生活の中で、異動していく人なんてたくさん見てきたし、送別会にも何度も参加した。

私とかなり近い距離で仕事をしていた頼りになる先輩や、地方の営業部からの要望で引っ張られていく営業マン達も知っている。

その度に、買ったばかりの家はどうするんだろうとか、奥さんや子供は置いて行くのかな、とか。

恋人がいる人だったら、これを機会に結婚を決意すればいいのに、と。

他人事なのをいい事に、色々と余計な想像をしていたけれど。

実際に、自分の身に『転勤』というものがふりかかってきて、まず思うのは。

『どうしよう』

という気持ち。

その『どうしよう』は、行くのか行かないのかの『どうしよう』ではなくて。

とにかく、『どうしよう』という、それだけの気持ち。

仕事と生活、両拠点が変わってしまう転勤。

まさか自分がこんな状況になってしまうなんて。

本当、『どうしよう』だ。

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